はじめに
本書は、VRパノラマの撮影からオーサリングまで、一通りの基本的な作業を体系的に紹介します。日本語の書籍としてはもちろん日本初。主要なハードウェアやソフトウェアの詳細を記した書籍としては、世界でも類を見ないものと思います。
VR(virtual reality)パノラマは、天地を含む360°全方位を撮影した静止画です。基本的には、PCやモバイル機器iPadなどのモニタに表示し、マウスや指先、あるいは本体のジャイロ機能を使って画像を動かして見ます。
「何これ?」
「どうなっているの?」
「カメラはどこにある?」
初めて見た人は、まさに天地がひっくり返ったような衝撃を受けます。
本書コラムでも触れているようVRパノラマは十数年の歴史のある技術ですが、現時点では未だ一般に知られているとはいえません。初期のころに小さなブームがあったがために、「過去の技術」として記憶されている方も少なくないようです。
しかし今は、PCの高性能化、通信の高速・大容量化、iPadを代表とするタッチパネル式モバイル機器の爆発的普及といった時代背景があります。そして、VRパノラマ自体のハードウェアとソフトウェアの多機能・高性能化も果たされています。新しいビジネスを求める企業と、新しい表現を求めるクリエータたちは、我先にこの技術の展開を競い始めています。
広告、宣伝、報道、記録、アーカイブ、芸術といったジャンル以外にも、防災、教育、健康、娯楽など、ありとあらゆるジャンルにVRパノラマ独自の表現を活かすことができます。VRパノラマは、写真でも動画でもある/ない、全く新しい表現領域をもつメディアとなりえるでしょう。
ところがいざ、VRパノラマを始めようと思った人は、今度は意外な事実に衝撃を受けることになります。
「日本の製品がない」
「日本語が通じない」
VRパノラマが普及してこなかった原因の一つは、おそらくここにあります。まさしく、言葉の障壁。
私自身、外国語ができるわけではあませんが、多くの方々のご支援と、多くの無駄な労力と時間を掛けることで、一通りのことを学んできました。本書は、その成果です。私自身の感覚でいうなら、本書さえあれば「無駄な1年」を経験しなくて済んだはずです。
私自身の勉強不足、理解不足による間違いもあるかもしれません。この点、どうかご容赦いただきつつ、皆さんの仕事や趣味のお役に立てていただければ幸いです。
写真道場
久門 易
2011年12月吉日